記憶はどこに消えた?

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圧倒的美学、エンリコ・ピエラヌンツィ:Live At The Village Vanguard

またもピアノトリオ・アルバムをご紹介します。

気の抜けた親父3人のジャケットが渋いです。

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 エンリコ・ピエラヌンツィ:Live At The Village Vanguard

現代最高のジャズピアニストの一人であるエンリコ・ピエラヌンツィはイタリア出身のジャズピアニストで、現在70歳の大御所となります。ジャズとクラシック両方を学んだピアニストであり、繊細で精神性の高いプレイで有名です。オーソドックスなジャズから独自の解釈をブレンドした現代的なインプロヴィゼーションまで知的にこなすピエラヌンツィはジャズピアノファンには神様の1人としてお馴染みの存在です。

当作は2010年にピエラヌンツィがニューヨークの超名門クラブ、ヴィレッジヴァンガードに出演した際の録音で、パーソネルにマーク・ジョンソン(b)とポール・モチアン(ds)という気心の知れた大御所を携え、気迫のこもった演奏を行っています。

曲目を以下に記します。

1. I mean you (Thelonious Monk)
2. Tales from the unexpected (Enrico Pieranunzi)
3. Pensive fragments (Enrico Pieranunzi)
4. My funny Valentine (Richard Rodgers - Lorenz Hart) 
5. Fellini's waltz (Enrico Pieranunzi)
6. Subconscious Lee (Lee Konitz)
7. Unless they love you (Enrico Pieranunzi)
8. La dolce vita (Nino Rota)

では聴いていきましょう。

セロニアス・モンクの軽快な1から幕を開けます。こういったバップの演奏も巧く料理し、ピエラヌンツィ特有の洒脱かつ深さのあるタッチを存分に聴かせます。2、3と彼特有の美意識で書かれたジャズとクラシックの中間的な自作曲を挟み、一番の聴き所ではないでしょうか、クラシック風の前奏からマイ・ファニー・バレンタインが紡ぎ出されます。前半をバラードで纏めてからの中間部からの堰を切ったような熱いプレイングに痺れます。とにかくピラヌンツィというピアニストは豊穣なピアニズムによる空間支配が凄いです。聴衆も恐らく息をするのも躊躇われる程の美学と緊張感を感じた筈です。そして自作曲と天才リー・コニッツの楽曲を挟み、映画音楽の8番「甘い生活」を弾きます。しっとりした前半部からフリー・ジャズのような現代的解釈のアドリブ、突然飛び出すクラシックのフレーズ等ピエラヌンツィの技術を結集させたトラックとなっており非常に聴き応えがあります。

 

おわりに

ピエラヌンツィはビル・エヴァンスの熱心なファンで研究をしており、イタリアのエヴァンス等と呼ばれる事もあるそうです。確かにクラシックを含めたアプローチや静謐で情熱的な精神性、美しいブロックコードとメロディの調和等明らかに影響を受けている点はありますが、それらエヴァンスの美しい奏法を完全に消化し己の美学と融合させていったピエラヌンツィの音楽は完全にオリジナルのものであり、現代最高のジャズピアニストに数えられる所以であると思います。

兎にも角にもとんでもなく巧いです。音の間隔や短さ、フレーズの内部での音量の緩急など綿密に計算されている事が伺え、超絶技巧となっています。

 

とにかく最高です。全人類におすすめします。