記憶はどこに消えた?

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チック・コリア:Expressionsを聴いて

ジャズアルバムのご紹介です。

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チック・コリア:Expressions(邦題:星影のステラ)

 

ジャズファンにはお馴染みの天才ピアニスト・キーボディストのチック・コリア様による1994年のピアノソロアルバムになります。以下に曲目を書きます。

 1.ラッシュ・ライフ

 2.ディス・ニアリー・ウィズ・マイン

 3.イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー

 4.マイ・シップ

 5.時さえ忘れて

 6.モンクス・ムード

 7.オブリビオン

 8.パノニカ

 9.サムワン・トゥ・ウォッチ・オーヴァー・ミー

 10.アーマンドズ・ルンバ

 11.ブルース・フォー・アート

 12.星影のステラ

 13.アイ・ウォント・トゥ・ビー・ハッピー

 14.スマイル

チックはクラシックを学んだピアニストであり、伝統的なジャズからラテン音楽、また電気楽器を主体としたフュージョンまで幅広くかつずば抜けた仕事をこなすミュージシャンですが、ソロピアノ作品は多くなく、またその中でもスタンダートを中心とした作品は今作が初めてとの事で、発売当時反響を呼んだそうです。

2020年現在のチックは高齢の熟達したピアニストらしい、音数を抑えた情感ある演奏をする事が多くなったように思います。今作時のチックは52歳と、まさしく技術と精神が最大に結実した、いわゆる脂の乗った時期の作品となっております。

収録曲を聴いていきましょう。

 デューク・エリントン楽団で名高いピアニスト、ビリー・ストレイホーンの名曲ラッシュ・ライフの格好いいイントロから幕を開けます。マイ・シップ、時さえ忘れてなど美しいスタンダードが続き、チックがリスペクトしているであろうセロニアス・モンクバド・パウエルの楽曲に続きます。10番のアーマンドズ・ルンバはチックの自作曲であり、軽快なテンポとメロディーで楽しく聴かせる素晴らしい作品です。最終曲スマイルはお馴染みチャールズ・チャップリンの名曲で、終幕にピッタリの落ち着いた演奏となっています。

全体を通して有名なスタンダード、それもロマンチックな楽曲ばかりとなっています。しかしその雰囲気に飲まれることなく、あくまで冷静なチックらしい硬質な演奏が繰り広げられます。伝統的なジャズの表現に終始しており、いつもの前衛的なアプローチやスパニッシュなフレージングは聴けません。しかしそれが逆にチックが本来持っている素質、つまり根底にあるジャズイズムとでもいうべきものを引き出しているように思います。

文筆や在宅ワークの作業中BGMとしてぴったりのアルバムです。しかしふいにチックの流麗なピアノワークに心を打たれ、作業を中断してしまうかもしれません。

私は経験済みです。