記憶はどこに消えた?

記憶はどこに消えた?

音楽と漫画、海外ドラマにガジェットのレビュー及び備忘録。

空前の名曲、吉幾三のと・も・子について少しだけ語・る・よ

今回は楽曲を紹介します。


と・も・こ 吉幾三

出典:You Tube

サムネイルから既に只者ではなく渋いです。

演歌歌手として有名な吉幾三ですが、若かりし頃なかなか芽が出ず、改名したり楽曲のジャンルを模索し試行錯誤したりと意外と苦労している事が知られている歌手です。

コミックソングと演歌路線を推し進めていた80年代半ばに恐らく日本最初のラップ楽曲と思われる、かの有名な俺ら東京さ行ぐだで大ヒットを飛ばします。更にそれ程間をおかず発表した演歌の雪國でオリコン1位を獲得し、名声を不動のものとしました。

多数の曲の作詞作曲を自身で手掛けており、作曲家としても歌手としても成功した音楽家と言えます。

近年ではその魅力的な存在から某動画サイト等でIKZOとタイトルに冠されたRemixやマッシュアップ、またネタ動画化がされていたり幅広い層から注目され愛されています。

さて表題のと・も・子はその吉幾三が78年に発表した楽曲です。津軽弁の軽快な語りではじまり一聴するとフォーク調のコミックソングにも感じられるのですが、聴くにつれ感情的で情熱的な歌詞が展開される切ないラブソングとなっていきます。

歌詞を見ながら聴いていきましょう。

とも子と二人で暮らしてた頃、ハッピーでナウな日々だった。

'買物に行って来まーす'ってとも子。'行ってらっしゃい、 気いつけてね'ってわたし。

それっきり かれこれ一年にもなるべか。買物に行ったきり 一年も帰って来ないオナゴって、どこにいるもんだべか?

さみしくて、恋しくて、 とも子のはいてたパンティーいつも 頬づりしてるの。 たまにかぶって歩いたりしてるの。

'とも子歯のキレイな人キライ、 髪の毛キチンとわけてる 人もキライ。 男のくせにオーデコロンつけてる人大キライ! とも子どんな汚いかっこうでもいいの、心のキレイな人なら' って云うから、わたし一年ぐらいだべか、歯も磨かな いで、頭の毛ぼさぼさで、 風呂なんか入ったこともネェ。 したらとも子'汚なすぎる!'って・・・

とも子捜して旅に出た。 盛岡、仙台、福島、山形、 グルっと回った。とも子の田舎 秋田だって聞いて、秋田たずねて行った。 そしたらアパート の管理人が出て来て 'ああその人ならたった今引越しましたよ'って。 どこへ行ったか分かりますかァったら' 青森に行くようなこと 言ってましたョ'って。青森たずねてみれば、 別人でスンゴクきれいだったりして・・・

秋の函館とも子の居る所わかった。アパートの下から、とも子 俺だョーったらとも子窓から顔ベローと出して、 いきなりワーッと泣いて。 どうしたの?とも子大きなお腹して、 食べすぎたのったら'子供できたの'って。 アレー誰の子供なのってたずねれば '知らない'って、 涙コひとつポロとながして・・・

かわいそうなとも子、あれから3回目の秋だ、 とも子が死んでから 3回目の・・・3回目の秋だ・・・・・・

この歌を貴方に聞かせたかった

この歌を貴方に聞いてほしかった

この海の向こうに 旅に出た君に

間に合わなかった 花束のかわりに

貴方のために作った この唄 二人の愛の唄

この歌を貴方に聞かせたかった でも今は居ない貴方に 遅かったラブソング

この愛を貴方と育てたかった

この胸を貴方に打ちあけたかった

あの星の向こうに 旅に出た君に

渡せなかった 指輪のかわりに

貴方のために作った この唄 二人の愛の唄

この愛を貴方と育てたかった でも今は居ない貴方に 遅かったラブソング ララ・・・・・・

とも子、とも子 遅かった ラブソング

出典:nana-misic.com

訛りのきつい、いかにも不器用そうで歯を磨かず髪はボサボサで風呂に入らない男のハッピーでナウな日々から語りが始まります。

日々募る思いがあったのでしょう、とも子は突然蒸発してしまうのですが、それから1年が経ち、男はとも子を探しに行く決心をします。恋人の失踪による喪失感をパンティーを被ったりして紛らわしていた男でしたが、ついに東北地方を周る旅に出ることにしました。

この期に及んで「久しぶりに会ったら別人でスンゴク綺麗だったりして!」などと呑気に振る舞う男でしたが、青森から函館に渡り、ついにとも子と再開します。

この時点で不穏な空気、凶兆を感じさせるのですが、その予感は現実のものとなります。

とも子は妊娠していました。

誰の子なの?ってたずねれば知らないって。

この情感溢れる語りについ引き込まれます。

そんなワケありでかわいそうなとも子でしたが・・・季節は巡ります。

そして、とても言葉では言い表せない悲しい出来事があり、それから3回目の秋になっていました。

男は歌います。

とも子へのラブソングを。

花束と指輪の代わりに、星の向こうに旅に出たとも子に、心からのラブソングを。

何もかも遅すぎたラブソング。

 

歌詞というよりもはや詩ですが、この情景がありありと浮かんでくるような世界観の文章を軽快なフォークに載せた吉幾三はやはり卓越した作曲家だと思います。またカラオケで歌ってみたりYou Tube等で歌ってみた音源を聴いてみるとわかるのですが、あの津軽弁での迫真の語りは常人に容易に真似できる事ではなく、語り手としても素晴らしい技量を持っている事がわかります。

吉幾三自身が一体どういう状況下でどういう精神状態のもとこの曲を作ったのかまるで謎です。そしてこの曲の6年後俺ら東京さ行ぐだを書きその2年後雪國を書いた彼はどう考えても常人ではありません。

この機会に、もっと聴き込んでみようと思います。